「インフルエンザワクチン接種後にも感染したんですが・・・」
感染するリスクとその重症化予防効果
冬の風物詩とも言えるインフルエンザ。この時期、私たち小児科医の元には、ワクチンを接種したのに感染したという声も少なくありません。しかし、インフルエンザワクチンの最大の目的は「感染予防」だけでなく、「重症化予防」にあるのです。
インフルエンザワクチンの効果に関する研究
いくつかの論文が、ワクチン接種による重症化リスク低下を証明しています。
📖入院リスクを大幅に減少
アメリカで行われた研究によると、インフルエンザワクチンを完全に接種した子どもは、インフルエンザ関連の入院リスクを57%減少させることが確認されました。特に、H1N1型ウイルスに対しては74%の効果がありました (Kalligeros et al., 2020)。
📖重症化リスクを削減
6か月から17歳の子どもを対象にした研究では、インフルエンザワクチン接種が集中治療室への入院リスクを74%削減し、命を守る効果があることが示されました (Ferdinands et al., 2014)。
📖学校欠席や家庭への影響の軽減
再発性呼吸器感染症の子どもを対象とした研究では、インフルエンザワクチンが呼吸器感染症の発症を大幅に減少させ、学校欠席日数や親の仕事の欠勤も減少したことが確認されました (Esposito et al., 2003)。
📖部分接種でも一定の効果
一部の研究では、完全接種が最も効果的である一方で、部分接種でもインフルエンザによる入院を一定程度防げることが示されています。これは、特に初めて接種する子どもにとって重要な知見です (Ritzwoller et al., 2005)。
ワクチンが「重症化予防」に寄与する理由
ワクチンの効果は「感染そのものを完全に防ぐ」ことではなく、「感染した場合の症状を軽減する」ことにあります。ワクチンは万能ではありませんが、重症化を大幅に防ぐ力があります。感染を完全に防げるわけではないという事実を知った上で、その恩恵を享受することが重要です。
院長コメント👨⚕️
「ワクチンを打ったのにインフルエンザになりました」と聞くたび、私は江戸時代の火事見舞いを思い出します。当時、火事を防ぐために火消しが日々努力しても、火事そのものを完全に防ぐことはできませんでしたが、大火になるのを防ぐことには大いに役立ちました。ワクチンもこれと同じ。火事そのものを避けるのが難しいように、インフルエンザ感染を完全に防ぐことはできません。しかし、重症化という「大火」を防ぐための頼れる火消し役です。「火の用心」に相当するワクチン接種、ぜひお忘れなく!