迷走神経反射について ― 急に立ち上がったときの「ふらつき」の正体 ―

日常生活の中で「急に立ち上がったら、ふらっとよろけた」という経験をされた方は少なくないでしょう。この現象の多くは「迷走神経反射」と呼ばれる生理的な反応であり、古くから医学の中で研究されてきました。


研究からわかる迷走神経反射の本質

迷走神経反射は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることにより、血圧の急激な低下や脈拍数の低下を引き起こし、一時的に脳への血流が不足することで発生します。

  • 小児や思春期の若年者に最も多く見られる失神の一型であり、学業や生活に影響を及ぼすこともあります (Song et al., 2018)
  • 発症の背景には、自律神経の失調、脳血流の変化、ホルモンや遺伝的要因など、複合的な仕組みが関与するとされています (Li et al., 2020)
  • 治療は多くの場合、生活習慣の工夫により改善が見込めます。具体的には十分な水分と塩分の補給、規則正しい生活、起立時の注意などが推奨されます (Du, 2014)

予防のためにできること

  • 急な立ち上がりを避け、姿勢の変化はゆっくりと行う
  • 十分な水分・塩分を補う
  • 睡眠を整え、自律神経を安定させる

こうした小さな習慣の積み重ねが、大きな安心につながります。


院長コメント👨‍⚕️
皆さまの日々が、安定したリズムとともに、凛とした歩みでありますように。

歴史をひもとくと、能の舞台で役者が静止したまま、ゆっくりと動きを重ねる「間(ま)」の美学があります。観客は息を呑み、その一瞬に緊張と解放を味わうのです。迷走神経反射もまた、体の「間」の表れ。急な動きに対して体が一時的に制御を失い、静止してしまうような現象といえるでしょう。

舞台における「間」は芸術を深めますが、日常生活における「ふらつき」は歓迎されません。水を一杯飲み、立ち上がるときに一呼吸置くことで、私たちは「健康の舞台」を安全に演じ続けることができるのです。

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